透析看護は、腎臓の機能が低下した患者さまが安心して透析治療を受けられるよう支える、専門性の高い分野です。この記事では、透析治療の基本的な仕組みや、透析看護師の仕事内容、1日の流れ、やりがいや向いている人の特徴までわかりやすく解説します。
透析看護に興味がある方や、転職先を検討中の看護師の方が「自分に合っているか」を判断するための参考情報としてぜひ活用してください。
人工透析とは?
人工透析とは、腎臓の機能が低下した際に、体内の老廃物や余分な水分を除去するための治療法です。腎臓が正常に機能しない場合、体内に有害な物質が蓄積し、健康に重大な影響を及ぼす可能性があります。人工透析は、これらの有害物質を取り除き、体内のバランスを維持するために行われます。
透析治療には大きく分けて、血液透析と腹膜透析の2種類があります。詳しくはこちら
人工透析とは?仕組みや血液透析と腹膜透析の違いをわかりやすく
透析看護師とは?
透析治療は、腎臓機能が著しく低下した方の命を支える重要な医療です。透析は腎移植を受けない限り生涯続き、患者さま本人だけでなくご家族にも身体的・精神的・社会的な負担が大きくのしかかります。週数回の通院や厳しい食事制限、合併症への不安など、生活は治療と隣り合わせです。そうした中、患者さまが安心して自分らしく暮らすために寄り添うのが「透析看護師」です。
透析室看護師の仕事・役割
透析治療の安全な遂行
透析治療は、透析装置の準備や、回路内を洗浄するプライミングから始まります。治療条件を患者さま一人ひとりの状態に合わせて設定し、バスキュラーアクセス(シャント)への穿刺、治療開始・終了後の機器操作、そして確実な止血まで、一連のプロセスを安全かつ正確に実施します。
- バスキュラーアクセス(シャント)管理
シャントは透析の命綱です。シャントの状態を、毎回注意深く観察・アセスメントします。聴診器で血液が流れる音(シャント音)を確認し、視診・触診によって血管の張りや狭窄、閉塞、感染の兆候がないかを確かめます。シャントの異常は透析効率の低下や治療の継続困難に直結するため、閉塞や感染の兆候を早期発見することが極めて重要です。
- 合併症の予防と早期発見
合併症は、予防と早期発見が重要です。そのためには患者さまの自己管理と医療的ケアの両面からのアプローチが求められます。
透析中は、除水による血圧低下や不整脈、体内の老廃物が急激に除去されることで起こる不均衡症候群、アレルギー反応など、さまざまな合併症が起こる可能性があります。
また、透析を長期間継続することで蓄積されるリスクとして、心血管系疾患や骨・関節疾患、免疫機能の低下などがあります。
バイタルサインの定期的な測定はもちろん、患者さまの表情や訴えのわずかな変化も見逃さず、異常の早期発見と迅速な対応を行います。
- 的確なアセスメントと医師への報告
透析中の患者さまの状態は、常に変化する可能性があります。そのため、看護師は血圧や脈拍といった数値データだけでなく、患者さまの「顔色」「表情」「声のトーン」「皮膚の乾燥具合」「呼吸の様子」など、五感で得られる情報を統合して状態を把握します。「いつもより口数が少ない」「挨拶の声に張りがない」といった些細な変化が、体調不良の重要なサインであることも少なくありません。また、食事内容や家庭での出来事など、他の原因が隠れている場合もあります。様々な情報を収集し多角的にアセスメントすることでリスクを予測し、先回りして声かけをしたりするなど、予防的なケアを計画します。
異常があれば速やかに医師に報告し、治療方針の調整につなげることも重要な役割です。
その人らしく生活するためのサポート
透析治療は週に数回、生涯にわたって続きます。そのため、患者さまが治療を生活に組み入れながら自分らしい生活を送るために、身体的サポートのみならず、精神的・社会的サポートが極めて重要になります。看護師は、患者さまの療養生活を長期にわたって支援する役割を担います。
- 自己管理(セルフケア)の支援
食事・水分管理、服薬管理、シャントの自己管理など、日常生活における多くの注意点を、患者さまの理解度や生活背景に合わせて丁寧に説明し、患者さまが実行できる方法を一緒に探していきます。これは一方的な指導ではなく、患者さまが主体的に治療に取り組めるよう動機づけを行い、共に目標を設定する協働作業です。適切な管理は安定的な透析療法の実施と合併症の予防になり、患者さまのQOL向上につながります。
- 精神的なサポートと信頼関係の構築
透析導入は、患者さまにとって大きな喪失体験となり得ます。生活の変化や将来への不安、さまざまな制限に対するストレスなど、患者さまが抱える心理的な負担に寄り添うことが不可欠です。何気ない会話の中から患者さまの思いや悩みを汲み取り、安心して本音を話せる信頼関係を築くことが、治療を前向きに継続する上での大きな支えとなります。
また、生涯に渡る治療を続けていくためには、患者さまの療養生活を支えてくださるご家族へのサポートも必須となります。
- 生活の質(QOL)向上のための支援
治療による制約の中でも、仕事や学業、趣味、旅行など、患者さまが「やりたいこと」を諦めずに済むよう支援します。例えば、出張先や旅行先での臨時透析の手配に関する情報提供や、社会資源の活用方法(医療費助成制度など)を医療ソーシャルワーカーと連携して案内するなど、患者さまの生活全体を視野に入れたサポートを行います。患者さまによっては移植や腹膜透析、自宅透析など、一度血液透析を開始した後であっても患者さまに適した治療が行えるように情報提供を行います。
- エンパワメントと協働意思決定(SDM)
患者さまを支援する際には、患者さまを「指導される側」として一方的に管理するのではなく、治療の主体的な「パートナー」として捉えることが重要です。終末期にある患者さまに限らず、新たな治療的制限が加わった時や合併症を発症した時など、患者さまの人生や価値観を尊重し、治療方針などを共に話し合って決める「協働意思決定(Shared Decision Making)」のプロセスを大切にすることで、患者さまの自己管理への意欲や治療への満足度を高めることができます。
- 多職種連携
医師、臨床工学技士、栄養士、PT、ソーシャルワーカーなどと連携し、患者さまを多角的に支援します。院内の職種だけでなく、患者さまが生活する場のケアマネージャーや訪問看護師、訪問介護士、時には入所施設の職員や包括支援センターとも情報共有し、患者さまの生活を支えます。
透析看護師の1日の流れ
午前・午後の2部制、夕方の透析も行う3部制で透析治療を行っている施設があり、患者さまの生活に合う時間帯で対応しています。
【日勤シフトの一例】
時間帯 | 主な業務内容 |
---|---|
8:00〜8:30 | 出勤・ミーティング、機器の準備、物品・注射薬の準備 |
8:30〜9:00 | 午前透析患者受け入れ、体重測定、バイタル測定、シャント部位確認 |
9:00〜13:00 | 穿刺・透析開始、治療中の観察・記録、異常時対応 *この間、交代で休憩を取ります |
13:00〜13:30 | 午前透析終了、止血、バイタル再測定、体調確認 |
13:30〜14:00 | ベッド清掃・環境整備、機器洗浄、午後透析の準備 |
14:00〜18:00 | 午後透析実施(午前と同様の流れ) |
18:00〜18:30 | 終業処理、記録整理、翌日の準備 |
※上記のスケジュールは一例であり、施設によって詳細は異なります。
透析室看護師のメリット
- 夜勤がない
- 日曜休み、定時勤務が多いため、ワークライフバランスを保ちやすい
- 専門性の高いスキルが身につく
- 長期的な患者関係の構築ができる
- 患者のQOL向上を実感できる
- 比較的落ち着いた環境
- キャリアの幅が広がる
透析看護は、専門性を深めながらワークライフバランスも保ちやすい職場を探している方にとって魅力的な選択肢です。
透析室看護師のデメリット
- 穿刺の精神的プレッシャーがある
- 同じ患者との長期関係による精神的負担
- 土曜・祝日勤務がある
- 職場によっては遅番勤務がある
- ルーチンワーク化による刺激の少なさ
透析室看護師が向いている人
「透析看護師に向いている人」と一言で言っても、実際にはさまざまなタイプの方が活躍しています。たとえば、
- コミュニケーションを大切にする人
- 生活支援や教育に関心がある人
- 医療だけでなく患者の生活背景や悩みに寄り添える人
- ルーチンワークを丁寧にこなせる人
- 医療機器の操作が苦にならない人
- 穿刺が苦ではない人
ただし、これらは一例にすぎません。実際の現場では、経験を重ねる中で必要な力を身につけていく方も多く、最初から完璧に向いている必要はありません。
「透析看護に興味がある」「患者さまの生活を支えたい」という気持ちがあれば十分に活躍のチャンスがあります。
透析看護の魅力とやりがい

- 患者さまと長期的な関係を築ける:定期的に通院される患者さまと信頼関係を深め、人生に寄り添えるやりがいがあります。
- 急性期・慢性期の両方の看護が経験できる:急変対応から生活支援まで、幅広い看護スキルが身につきます。
- 患者の生活の質(QOL)向上に直接貢献できる:自己管理支援や生活指導を通じて、患者さまの自立や社会復帰を後押しできます。患者さまと長期に関わるため、自身が行った看護によって患者さまが良い方向に変わっていく様子を見られる喜びがあります。
- 観察力とアセスメント能力が磨かれる: 数値データだけでなく、表情や行動の変化から異常を察知したり、症状から全身で何が起こっているかをアセスメントする能力が磨かれます。
- 認定看護師や学会認定の透析療法指導看護師、慢性腎臓病療養指導看護師、透析技術認定士など、資格を取得することでスキルアップを目指せます。
透析看護は、単なる「治療の補助」ではなく、患者さまの人生に寄り添う看護です。そのため、長期的な関わりを大切にしたい人、患者さまの話に耳を傾け、共感できる人、チームワークを大切にできる人には、透析看護師が向いていると言えます。
未経験でも、基本を理解し、新しい知識や技術を学ぶ意欲と患者さまに寄り添う姿勢があれば、十分に活躍できます。
自分の性格やキャリアプラン、生活スタイルなどと照らし合わせながら、透析室勤務が自分に合うかをじっくり考えてみてください。
看護師募集
戸田中央メディカルグループでは透析看護師の他、病棟看護師、訪問看護師など募集しています。患者さまの人生に寄り添う看護に興味がある方一緒に働いてみませんか?